いつも気分にまかせて本を選んでいるので、統一感がないです・・
『冷血』(トルーマン・カポーティ、新潮文庫) 映画の「カポーティ」公開に合わせて方々で作品が出版されていますね〜。そのなかで映画で取り上げられている彼のノンフィクション作品を読みました。平穏な町で起きた一家惨殺事件を、その家族と犯人、および捜査する側と、多角的に描いています。「誰々は何年生まれで、云々」といった単なる調査記録ではなく、先が気になるような「読ませる」構成になっていて、特に事件への持って行き方がうまいです。 『上海』(横光利一、講談社文芸文庫) 長編小説が読みたくなり、古本屋で買ったままほっていたこの作品を。物語の筋よりも、「新感覚派」節が炸裂した上海の街の描写がとてもカッコいい。このディープな街で激動の時代を生きる日本人の男たちの群像劇ですが、中心人物の参木さんが国籍問わず女性にモテまくりで笑えます。 『日々の麺麭・風貌』(小山清、講談社文芸文庫) 次は題名に惹かれて買ったこの作品。日常的な題材を扱った短編集です。「小品」という感じの地味な内容のものが多いけれど、冒頭の「落穂拾い」がとてもよかったです。ここに出てくるひとりで古本屋を営む女の子がとても魅力的です。 『文学賞メッタ斬り』 『文学賞メッタ斬り リターンズ』(大森望・豊崎由美、PARCO出版) 日本における様々な文学賞の位置づけと、その受賞作・および選考に対する批評、と書くとおカタい感じがしますが、タイトル通り著者2人がかなり言いたい放題にやってます。最初に読んだ『リターンズ』のほうでは、前々から疑問に思っていた芥川賞の選評をさんざん茶化してくれていて、選考基準なんていい加減なものなんだなあと思いました。そうはいってもお二人の趣味と私の趣味はぜんぜん違うので、彼らが評価している現代作家や作品でピンとくるのはなかなかないようです・・ 『いつか王子駅で』(堀江敏幸、新潮文庫) 『熊の敷石』(講談社文庫) 『メッタ斬り』と並行して堀江さんの作品を読んでいたのですが、2人の評価はかなり高いですね。さして大きな事件も起こらない話ばかりなのに、いつしか引き込まれるその文章力はすごいです。うねうねとした長文の末に軽いオチがつく、という進め方には、私の好きなクリスチャン・オステールにも通じるものがあります。何でも堀江さんの作品のなかに、オステールの『アルクイユの橋』に触れた一節があるとか。それだけでなく作品中には文学的な脱線がしばしば見られ、日々の出来事や、競馬などといった事柄と同等に語られているのですが、文章から人柄のよさがにじみ出ているだけに、悪意のない、だからかえってタチの悪いペダンチスムに思えて困惑するときがあります。そういう文学に関する言及の少ない「城址にて」などは非常に心地よく読めるので、もう少し他の作品を読んでみたいと思っています。 『号泣する準備はできていた』(江國香織、新潮文庫) 久々に江國さんの作品を読みましたが、文体がかなり変化したように感じました。以前にも増して冷淡になっているような。初期作品に見られた詩的な表現が消えているようにも思います。それはこの作品に限ったことなんだろうか。この作品に対する『メッタ斬り』のお二人の評価も高い(好みは別として)ですが、個人的には初期の作品のほうが好きですね。
by poyance
| 2006-10-17 01:59
| 本
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